生命活動のエネルギー源となる脂肪酸は遊離脂肪酸とよばれ、炭素が20個以上連なった「なぎなた」のような形をしています。
こういう長い形をした分子はだいたい水には溶けにくい性質があります。
おまけにこの遊離脂肪酸分子は実際「なぎなた」のようにへたに生体の膜にふれると膜を気付つけたり破裂させたりしてしまいます。
前回お話ししたように私たちのからだは幾重にも入れ子構造のようになった膜でできていますので、「なぎなた」がむき出しのようになって動き回られるとあちこちが傷だらけ、場合によっては破裂してしまいます。

それを防ぐため遊離脂肪酸は通常「グリセリン」という分子やある種のたんぱく質と結合していて水になじみやすくなるとともに、結合していることでデリケートな細胞やミトコンドリアなどの膜を傷つけずにすむようになっています(ちなみにこのグリセリンと結合した脂肪酸は「中性脂肪(トリグリセライド)」と言われるもので、健康診断ではおなじみですね)。
グリセリンやタンパク質と結合した状態は、ちょうど「なぎなた」が何らかの鞘(さや)に収められているようなイメージです。
けれどもさや収納してある間、脂肪酸はエネルギー源として使えませんから必要なときにはどうしても「さや」をふり払って抜身(遊離脂肪酸)にせざるをえません。
この「さや」をふり払う役割をするのがリパーゼという脂肪分解酵素です。
リパーゼによって「抜身になったなぎなた(遊離脂肪酸)」ですが、何とかして非常にデリケートなミトコンドリア膜を傷つけないでくぐり抜け、燃料として燃やされるために内部(マトリックスといいます)にくべられなければなりません。
そのとき「抜身のなぎなた」は一瞬「別のさや」に収められ、保護されます。
この「別のさや」こそがL−カルニチンなのです。
「抜身のなぎなた」はL−カルニチンという最後のさやに一瞬収められることによってミトコンドリアの膜の内部に持ち込まれるようになります。
逆に言えば、もしL−カルニチンが少なければ「抜身状態のなぎなた」が暴れ出して膜を傷つけてしまいます。
そうなると発電所(ミトコンドリア)は爆発してしまい、それ自体を格納している細胞までが泡のように消えてしまうということがおこるのです。
放射能こそ出ませんが、かわりに大量の活性酸素が拡散して(ミトコンドリア発電所は酸素で燃料を燃やすときにどうしても活性酸素が出てしまいます)これが細胞を破壊してしまうのです。
このようなミトコンドリアの暴走による細胞破壊現象は時にアポトーシスとも呼ばれます。
まれにL−カルニチンの先天性欠乏症という、L−カルニチンが不足した赤ちゃんが生まれてくることがありますが、このミトコンドリア発電所の暴発(アポトーシス)がつみかさなってついには突然死してしまうことが知られています(L−カルニチンはもともとそのような赤ちゃんを救うための医薬品として使われてきました)。
L−カルニチンはこのような遊離脂肪酸によるアポトーシスを抑制するはたらきをもっていることがごく最近日本で研究されて明らかになってきました。
このあたりの知識は実は極めて専門的かつ非常に新しいものであり、世界でまだほんの一握りの人にしか知られていない事実です。
ですがこの最先端知識も今日お話ししたようなイメージを描いて頂ければ、専門家でなくても十分に理解して頂けるのではないかと思っています。
L−カルニチンで筋肉痛が抑えられたり脳細胞の一部の破壊が防がれることなどが知られていますが、一見「脂肪燃焼」と無関係に見えたこれらの現象が今日お話しした「アポトーシス」によって理解されるだろうと私は考えています。
PS:念のため誤解のないように付記しておきますが、毎日食事として摂取する油は今日お話ししたような「遊離脂肪酸」ではなくグリセリンと結合した安全な形として存在しますので、ご心配なく!
次回の更新は4/12 (木)です。