2008/05/01 カテゴリ: つれづれ : 

農学部というところ

私が高校生だった1970年代の半ば頃までは理科系学部の中では石油化学や電子工学が花形でした。

一方農学部といえば少々流行遅れのニュアンスを帯びていて、あまり元気がない学部のように見えました。

ところが、1980年代に入って遺伝子組み換え技術が盛んになると、農学部の中心課題は急速にバイオテクノロジーに移って行き、以降長らく特に農学、とくに農芸化学の分野では分子生物学、生化学、発酵工学などと見分けのつかないような研究が多く行われました。

それから20年を経た現在、農学の役割は元来のミッションであった食糧生産という問題とまた急速に向き合うことになってきているのではないかと思います。

どういう作物がどういう土壌で作れるか、どういう品種を開発することによってどれだけ作付けが広がるのか。

こういう課題は、本当に農学の農学らしい側面であるように見えます。

けれども、これはいくつかの理由により、昔の農学に回帰するといった単純なことではないと思われます。

一つは、過去20年以上に渡って発達してきたバイオテクノロジーの技術が現在かなり実用に移せるレベルになってきているということがあります。

その典型的なものはバイオ作物、特にある種の農薬に耐性をもつ作物の開発が挙げられます。

こういう遺伝子組み換え的なアプローチは昔の農学には不可能なものでした。






二つめは、植物資源を積極的にエネルギー源として活用するいわゆるバイオ燃料の開発です。

この、燃料としてのエタノール製造を行う発酵技術そのものは特に新しいものではないかもしれませんが、バイオ燃料が化石燃料に変わる新しい燃料として劇的に需要を伸ばしているため、食物用の作物と競合するようになってきました。

これが非常に大きな問題になっています。そのため食用作物との競合性のない植物資源の利用をはかるための研究はきわめて重要になってきます。

また、必ずしも肥沃とはいえない土地に耕地を拡大するための品種の開発なども必要なはずです。これらはすべて過去に農学という分野が直面しなかった新しい局面といえます。

この局面の底のほうには中国やインドを筆頭とするアジア諸国の人口爆発、あるいは経済基盤の変化といったことが現実に横たわっています。

つまり気候変動、食糧問題、エネルギー問題、人口問題、これらがクモの巣のように複雑に関連しあう構図の中で、地球の「表面」に棲む人類が急速な変化対応を強いられているのです。

こういうマクロな問題を扱うのは農業経済という分野になるはずですが、この分野もまた旧来の枠を大きく拡大させながら早期の解決策を生み出す責務を負い続けています。

このような意味で、私はこれから農学という分野が総合科学分野のひとつの核として、かつてないミッションを帯びてくるに違いないと思っています。

この思いは、昨今新聞の一面に食糧難がもとで世界中の各地に暴動が起こっているというニュースを見るたびに強まってきます。

中でも驚きを禁じえないのは、今日もはや当然の状況として耳目になじんできたこういう問題がほんの半年前、1年前には大して目立ったものとして私たちの目に映じてこなかったという、その事実です。

中国やインドの人口問題などは特にここ1年で大きな変化があったというようなことではありません。

1年後にはどういうことになっているのか、これは人間の想像力の限界といったことに関係しているはずだと思われます。

次回の更新は5/8(木)です。