2015/05/28 カテゴリ: 健康のための運動 : 

長生きするためには自然の摂理に逆らうことも

齢をとっても筋肉を豊かに保ち続けることは、身体をしっかりと支えて元気よく動き回るために重要です。

けれども筋肉の存在意義はそれだけではありません。

筋肉は脂肪燃焼の場としてもたいへん重要な臓器です。

私たちの身体は、運動していないときには糖よりも脂肪が優先的に使われています。

寝ているときなどは特にその傾向が強いといえます。

就寝中にも脂肪がちらちらと燃焼していれば決して脂肪の持ち過ぎ状態にはなりません。

若い時にあまり肥満しない理由は若い細胞でできたエネルギー要求量の多い豊富な筋肉細胞があり、そこで適度に脂肪が消費されているからです。

若者の肉体を自動車にたとえれば燃費の悪い車だということになるでしょう。

「燃費の悪さ」が健康につながる、というと自然の摂理に反しているようでちょっと妙に思われるかもしれません。

一方、筋肉が減少してくると「脂肪燃焼の場」が失われてくるため「燃費は向上」し、その結果として余った脂肪は(いざという時の飢餓や病気などのピンチに備えるため)備蓄に回ることになります。

けれども筋肉は他の臓器と違い、意識的に運動することで維持したり増やしたりすることができるユニークな特徴があります。

そこで、筋肉を増やすために運動をしよう、ということになるわけですが、実は筋肉の増量はそれほどたやすいことではないことも事実なのです。

京都大学の井上和生先生がそれについて興味深いことを書いておられますので、少し引用させて頂きます(『栄養と運動』杏林書院)。

『動物にとって筋肉を増やすことは大変な負担となる。

筋肉を増やすためにはそれだけ多くの材料と合成のためのエネルギーを余分に確保することが必要である。

筋肉は収縮する機能に特化した臓器であるために、運動時に活動する以外はほとんど何もなさず、しかも働いていない時にもエネルギーを消費続ける浪費家である。

このような理由で、動物において骨格筋の量は、動物の活動状況に見合った最低限の量になるように制御されている。

人間にもこのような骨格筋の量の制御が存在する。

骨格筋が思うように増えないのはこのような理由による。

危機的な状況においてはじめて筋肉の量を増やすことが赦される。

現在の運動能力よりも高い筋肉力が必要と認められる段階になってはじめて骨格筋の増大が起こるわけである。

トレーニングの質と量を高めていかなければそれ以上骨格筋の量が増えないのはこのためである。

逆に今ある骨格筋の量が必要ないと認識されたなら直ちに分解が起こり、筋肉量は減少する。

トレーニングを止めるとすぐに筋肉が落ちる、というのも骨格筋量を必要最低限に維持する制御が働くためである』

なかなか示唆に富んだ表現だと思います。

必要以上の骨格筋を増やさないことが動物としての生存戦略だというわけです。

けれども恐らくこれは、生殖の年代を終えたらほどなく死んでしまう大半の動物にはまったくその通りあてはまると思われますが、ヒトでは少し事情が異なるはずです。

ヒトは生殖年齢以降の寿命が例外的に長い動物です。

この点で、多くの動物がもっている生存戦略とは別の対策を講じる必要があるのです。

そのための対策はとりもなおさず、中年期から高齢期にも適度な筋トレを日常的に行うこと、それから筋肉を作るもとになるタンパク質をはじめとする栄養素を一生しっかり摂り続けることにほかなりません。

ある意味でヒトは自然の摂理に若干逆らうことによって例外的な長寿命を全うできる動物だというふうに考えることができます。


次回の更新は6/4(木)です。