天下の台所(肝臓)がおかしくなると全身が悲鳴をあげます
口から入ってくる食物を身体にとっての「食材の仕入れ」であると考えたとき、肝臓は真っ先にその食材を一手に引き受け、その時々の全身の各所に要不要を選り分けて調理する厨房の役割りをしている、こういうことを前回お話しました。
今回はその厨房の調子が悪くなってしまう場合について考えてみます。
まず、毒性の高いものが大量に入って来た場合には、さしもの肝臓もそれを処理しきれずに問題のあるまま下流に向かって流してしまわざるを得ないことがあります。
たとえば、アルコールもその一例です。
肝臓厨房に送り込まれる食材は一回こっきりということではなく、調理しきれなかったものや全身の臓器で不要だったものは何度も返品されてきます。
アルコールも血流に乗りながら全身を何度も巡りますが、その都度肝臓でアセトアルデヒドになり、さらにそれが酢酸という形に調理され、その度にアルコール濃度は徐々に低くなって酔いは覚めて行きます。
酢酸になってしまえばこれはれっきとしたメニューのひとつになるのですがアセトアルデヒドは毒物、たとえば除ききれなかったフグ毒のようなものです。
人によってアセトアルデヒドを酢酸に代謝する肝臓の余力には差があり、日本人はこの力が欧米人に比べて遺伝的に弱いことがわかっています。
これがさらに身体にとってなじみのないクスリのような物質である場合には単に調理不足というだけでなくそもそも料理方法がわからずに厨房そのものが破壊されてしまったりします。
医薬品は作用と副作用のバランスを考えながら作用メリットが大きい場合に使用されるのが基本ですが、効き目の強いクスリほど傷害性も高くなる傾向があります。
医薬品の添付書類にはしばしば副作用として「肝障害」と書かれていますがこれはまさに厨房がトラブルに巻き込まれる可能性のあることを示しています。
最上流にある調理の大本の機能が不完全になるとその下流に位置するすべての臓器に悪影響が及びます。
腎障害もしばしば起こる副作用ですが、これももともとは肝臓の機能不全が原因になっている場合が少なくありません。
あと、肝臓の細胞が固く線維化する肝硬変やその結果おこる肝臓がんではまともなキッチンスペースや調理人そのものが減ってしまうため、やはり全身がピンチに陥ります。
その前の段階にある脂肪肝は本来腸管膜や皮下に貯蔵されているべき脂肪が行き場を失って肝臓に溜まってくる状態です。
この場合も不要な在庫食材(脂肪)が厨房の現場に持ち込まれるため十分な調理作業をサクサク進められなくなります(ただ、この場合は運動やカロリー制限食によってもとに戻せることが救いです)。
肝炎ウイルスによる感染では立ち入り禁止区域である厨房(どんなレストランでも関係のない人をキッチンに立ち入らせることはできないのと同じ)に不審者がやってきてあちこちに毒をまき散らすのですから、たまったものではありません。
このように肝臓の脅威となるものはたくさんありますが、通常の生活をしている限りこの「天下の台所」はまず問題なく黙々と働くだけの余裕を持っています。
肝臓厨房は身体のエネルギーの30%を使いながら24時間休むことがありません。
食後がとくに大忙しであることはもちろんですが、寝ている間にも各臓器の補修工事を支援するなど夜間独自の仕事があります。
深酒や寝酒をすることはただでさえ忙しい重要な夜間工事の時間に余分な仕事をもちかけることになりますので、まずは控えた方が賢明です。次回の更新は9/23(木)です。
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