豪放磊落、今は昔
いま日経新聞に連載中の『私の履歴書』は作曲家の村井邦彦さんが執筆されています。
昭和のポップスやフォークの名曲をたくさん作られた方のエピソードには超有名人も多数登場し日ごとに楽しい読み物になっています。
最近の話題には映画俳優の勝新太郎さんと石原裕次郎さんの話が出てきました。
村井さんが勝新さんに映画の主題歌の作曲を依頼され、裕次郎さんがそれを歌うという流れです。
その中で勝さんの撮影現場に行くと大量のお酒が準備されていて「仕事前の酒盛り」が始まってびっくりしたというシーンが出てきます。
そういう流儀で一流の映画が撮れるのですからやっぱり酒豪は違うな、と思います。
主題歌を入れるときには裕次郎さんの分もお酒が持ち込まれるので現場に持ち込まれるアルコールの置き場がなくなるほどだったそうです。
石原裕次郎といえば芸能界でも屈指の酒豪だったそうで「土俵の鬼」と呼ばれた初代若乃花関を前に1ダースだかのビールをあっという間に飲みほし、酒豪で鳴らしていたさしもの大横綱も飲み負けてしまったという武勇伝が残っています。
こういった天才には常人には伺い知れない才能やパッションが詰まっていたに違いなく、だからこそお酒の飲みっぷりにもまた人並み外れたスケールがあったのでしょう。
けれどもそんな活力満々の勝新さんも65歳で他界、裕次郎さんに至っては52歳で亡くなっていますからやはり生身の肉体は不死身ではありませんでした。
「健康リテラシー」という言葉があります。
健康に関する知識や教養のことを指す言葉ですが(申し訳ないけれど)この豪放磊落な昭和の銀幕スターの面々に欠けていたのはこれだったと思います。
下手の横好きの趣味で私は音楽仲間と過ごす時間が毎月何回かあるのですが、こういうところに集うミュージシャンの人たちも残念ながら健康リテラシーに乏しい傾向の人が多いように感じます。
喫煙や夜更けの深酒がどうしても増えてしまう相手に対してあまり無粋なことも言えずにいる私ですが、せっかくの才能が理不尽にスポイルされて行くのを見るのはつらいものです。
けれども中にはバンジョー名人の吉崎ひろしさんのように長らくマラソンレースに出場を続けておられるシンガーの方などもあり、こちらはまたすこぶる快活。作品にもそんなライフスタイルが自然に反映しているように感じます(思い起こせば作家の村上春樹さんもそうですね。村上さんも豪放磊落からは遠いイメージの「走る文豪」です))。
どういうスタイルが良いのかは一概には言えませんが、私的にはやはり何につけ元気で長持ちすることはシンプルに素晴らしいと思えるのです。
健康リテラシーという考え方は平成あたりから濃くなってきたのかもしれず、昭和の時代には鯨飲馬食の中にいわゆる「男らしさ」が美意識的に象徴されていたきらいもあります。
ちょっとした心がけで身体はかなりの要求に応えてくれるものだ、そんなふうに思いながら、それを美意識にまで高めて行けたらなあと思う今日この頃です。
次回の更新は3/2(木)です。
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