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いくつになっても身体は健康をめざす


 

「命を生み出すこと」とともに「命を終えること」もまた、生きとし生きるものにとって最後の大仕事です。


永遠の生命を持ってしまうと結局は食料や住処(すみか)を争奪し合うことになり、種は滅んでしまいます。


この点をみごとに克服し「短い寿命」と「多くの個体数」そして「莫大な多様性」を持つ戦略によって昆虫は種の保存における最高の成功者になっています。


一方、生きている限り何か身体の中でトラブルがあってもそれを復元しようとする力(レジリエンス)が発揮される、こういう粘り強い性質も生物は同時に持ち合わせています。


たとえば、百歳近くの高齢者の人が転倒して骨折してしまったとします。


急いで病院に担ぎ込まれ、折れた骨どうしがピッタリ合う位置に固定されるとその瞬間から折れた部分の骨細胞の遺伝子が速やかに機能しはじめ、骨の復元に向けての精密な作業が昼夜を問わず進められます。


そうして1カ月もすればみごとに元通りに繋がってしまいます。


時には手術によって折れた骨をボルトで固定したりもしますが、これとて単に「位置合わせ」の補助をしているだけのこと。


接着剤も何もなくても新しい細胞がむくむくと出現して来て、元通りになったところでピタリと作業は止みます。


割けてしまった皮膚を縫い合わせるのも同じことで、傷口を最終的に原状回復させるのは自分自身の遺伝子の発動にほかなりません。


トラブルが起こったときにそれを修復する、元に戻ったら修復作業を終了させる、という能力は生命力の大きな特徴のひとつです。


そのパワーを支えるために生物ができることといえば、修復に必要なエネルギーと材料をしっかり与えることだけ、つまり食べることです。


ケガをすると痛みで動きが取れなくなりますし、病原菌に感染されると疲労感やだるさのせいでこれも簡単には起き上がれなくなります。


これはトラブルを解決し復元するための仕事に身体中の資源を集中させるためのしくみです。


コロナウイルスの後遺症はかなり執拗なこともあるようですが、できるだけ軽く短く切り抜けるためにはやはり初期に安静にしているということがポイントになるのだそうです。


人間は即効性のある薬を求めがちですが、復元しようとする力をあせらずに支援することが結局完治するまでの近道になります。


先にふれた骨折からの回復力について最近改めて考えたのは、もうすぐ90歳になる私の父が今年転倒して中指と小指の根元を骨折してしまったからです。


すぐに手当てをしてもらえたのでしっかり固定することで3週間目には完全につながりました。


高齢とはいえ、この回復の速度は決して遅いものではありませんでした。


ちょっとしたアクシデントでしたが、こんなふうにミクロの世界で遺伝子がいつまでもけなげに働いてトラブル解決をしようとするところを想像してみると、命というものがつくづくいとおしくなりました。次回の更新は12/15(木)です。

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